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ハイエクは「清算主義者」だったのか

「構造改革は清算主義だ」という類の話が、よくリフレ派から出てくる。これはフーバーの回顧録(1952)にある、メロン財務長官の次のような言葉が根拠だ:

First was the “leave it alone liquidationists” headed by Secretary of the Treasury Mellon, who felt that government must keep its hands off and let the slump liquidate itself. Mr. Mellon had only one formula: “Liquidate labor, liquidate stocks, liquidate the farmers, liquidate real estate.”
しかし、これを裏づける1次資料はない。それどころかメロンは、次のように「清算」を否定しているのだ(White)。
Conditions today are neither so critical nor so unprecedented as to justify a lack of faith in our capacity to deal with them in our accustomed way.[the present moment was] no time to undertake drastic experiments which may conceivably result in breaking down the standard of living to which we have become accustomed.
フーバーがメロンを「悪玉」にしたのは理由があった。彼が回顧録を書いたとき、すでにメロンは死去しており、「フーバーが大恐慌を作り出した」という批判をかわすために、メロンに責任をなすりつける必要があったからだ。彼は、最初の引用に続けてこう書いている:
But other members of the Administration, also having economic responsibilities―Under Secretary of the Treasury Mills, Governor Young of the Reserve Board, Secretary of Commerce Lamont and Secretary of Agriculture Hyde―believed with me that we should use the powers of government to cushion the situation.
つまりフーバーや財務省の他の官僚が「善玉」で、メロンが彼らを押し切ったという話になっているのだ。これを鵜呑みにした経済学者がliquidationismという言葉を安易に使うようになり、ハイエクやロビンズまで清算主義者だといわれるようになったが、これはWhiteも指摘するように明白な誤りである。むしろハイエクは、貨幣の流通速度が低下しているときは通貨供給を増やしてマネーストックを安定させるべきだと書いている。

ケインズの財政政策には、ハイエクもロビンズも反対し、これが「清算主義」という汚名を着せられる原因となった。しかし今日からみると、ケインズの財政政策が大恐慌から世界を救ったというのは神話であり、マネーストックを安定させるべきだというハイエクの提言のほうが適切だった。ただし、ハイエクの議論はたぶんに混乱しており、デフレを肯定するようなことも書いた。大恐慌の最中に「何もするな」というに等しい政策提言しかできなかったという批判も、結果的には事実だろう。

大不況に際して、市場の機能を重視する経済学者を清算主義者とよぶレトリックは、Krugmanにも継承されており、きわめて有害なものだ。「・・・主義者」というレッテルによって何事かを言ったつもりになるのは、イデオロギーであって科学ではない。

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